アクアフィリング豊胸

アクアフィリング豊胸

アクアフィリング豊胸のよくある質問に、美容外科医 大橋昌敬が回答します。

監修医師:大橋 昌敬

大橋 昌敬 THE CLINIC 統括指導医。胸部外科学などで博士号を取得した後、高水準の医療技術を求められるカナダで、心臓外科医として活躍。帰国後、美容外科医に転身。国内随一の技術の持ち主として、国内の医療従事者を対象としたテクニカルセミナーの依頼や、国内外で学会発表のオファーが後を絶たない。

所属学会
日本美容外科学会/日本胸部外科学会/日本臨床抗老化医学会/日本形成外科学会
資格
日本美容外科学会専門医/日本胸部外科学会認定医/日本臨床抗老化医学会正会員/日本形成外科学会会員/サーメージ認定医/カンタースレッズ認定医/コンデンスリッチファット(CRF)療法認定医/VASER Lipo認定医/VASER 4D Sculpt(ベイザー4D彫刻)認定医

アクアフィリング豊胸とは?

充填材を注入するプチ豊胸の一種です。

大橋ドクターの解説

ヒアルロン酸豊胸に代わる豊胸術として登場

プチ豊胸といえばヒアルロン酸豊胸ですが、次のようなデメリットがありました。①半年〜2年といった短期間で吸収されてしまう、②しこりになりやすい、③注入物自体が硬めなので、触感も硬い。

ヒアルロン酸豊胸の基礎知識はこちら

これらを改善した新たな豊胸術として、アクアフィリング豊胸が登場したのです。

豊胸は柔らかく・しこりができにくいとされている

アクアフィリング豊胸の特徴こうしたデメリットを払拭すべく開発されたのが、アクアフィリング・アクアリフト豊胸です。注入材の98%が生理食塩水でできているので、「ヒアルロン酸よりも組織に馴染みやすい・被膜、しこりができにくい・触感も柔らかい」といった触れ込みでした。しかも、その効果は3〜5年持続すると言われています。さらに、体外に取り出したくなった時には、生理食塩水で容易に溶かすことができるようです。メーカーの言い分を100%信用するなら、良いことづくめの豊胸術と言えるかもしれません。ただし、実際にはそうとも言い切れない現実があります。

美容先進国、韓国の許可を受けた注入素材?

韓国での許可は「顔限定」であり、豊胸に使用する許可は受けていません。

大橋ドクターの解説

2019年に入ってから、度々、安全性を疑問視されているアクアフィリングですが、6月3日にも新たな事実が発覚し、ニュースになりました。

韓国食品医薬品安全庁が、「顔への1〜5mLの使用に限定して許可を出しているが、豊胸は対象外である」ことを明らかにしたのです。

現在、アクアフィリングは製造元の名称変更に伴って、別名で扱われているようです。

製造元の名称変更にともないアクアフィリングを「ロスデライン」として扱う新サイトを立ち上げた。

出典元:日本経済新聞「ジェル豊胸で安全強調 代理店、対象外でも『韓国許可』『顔限定』触れず」

しこりになりにくい?

アクアフィリング豊胸がしこりになりにくいのは本当です。しかしそれが逆に問題になっています。

大橋ドクターの解説

しこりができるのは被膜が原因

被膜とは、異物から体を守るために形成される自己組織の膜を指します。術後に胸が硬くなったり、しこりが生じたりするのはこれがあるためです。
なお、アクアフィリング豊胸だけでなく、シリコンバッグ豊胸やヒアルロン酸豊胸、脂肪注入豊胸といったあらゆる豊胸手術でも起こり得ます。

しこりができにくい=アクアフィリングが体内を移動する

被膜ができにくい=しこりができにくいという特徴は確かに魅力的ですが、このことは、他の組織に移動しやすいということも意味します。
例えばヒアルロン酸豊胸の場合、注入後のヒアルロン酸の周囲には被膜が形成されるのですが、このおかげでヒアルロン酸は1箇所にとどまることができ、ボリュームを維持することができます。一方のアクアフィリングは被膜ができにくいので、注入した位置から勝手に移動してしまうことがあります。触っただけで皮下や乳腺内、時には乳管に移動して母乳と一緒に出てきたなどという話もあるほどです。
被膜ができにくいということには、1長1短あるということは覚えておいてください。

アクアフィリング豊胸を受けた106人の患者における合併症の管理について報告しました。最も一般的な合併症は、乳房の痛み(80%)、乳房の硬化および変形(74%)、続いてゲルの移動(37%)でした。

出典元:「Radiologic Features of Distant Filler Migration with Inflammatory Reaction Following Augmentation Mammoplasty Using Aquafilling® Filler

アクアフィリングとアクアリフトの違いは?

メーカーが違うだけで、成分はほとんど同じです。

大橋ドクターの解説

はっきりしたことは明かされていない

アクアフィリング豊胸とアクアリフト豊胸、名称はクリニックによって異なりますが、双方の違いは未だ明確にされていないので、はっきりしたことは申し上げられません。
あくまでも私の見解ですが、ほとんど同じものを異なるメーカーが販売しているに過ぎないのではないかと考えています。
「アクアフィリングは危険とされているから、アクアリフトにしようかな」とお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、アクアリフトだからといって安全ということはないでしょう。もちろんその逆も同じです。

何ccまで入れられる?

片胸200cc程度が限界です。

大橋ドクターの解説

アクアフィリングの注入量

入れ過ぎは炎症のリスクが高まる

いくら注入しても大丈夫だと思われがちですが、200ccを超える注入は炎症のリスクを高めます。大量に注入すると胸がぱんぱんに膨らみ、注入物が本来意図していない部位(乳腺組織や皮下組織)にまで移動してしまうからです。そうなると炎症を起こす危険性が高くなります。痛みと腫れを伴って、時には除去が必要となるケースも少なくありません。

 

価格の相場はいくらくらい?

1cc¥4,000〜6,000です。

大橋ドクターの解説

プチ豊胸の割に、値段はプチではない

1ccあたりの費用はヒアルロン酸と比較すると少し値が張ります。1カップに必要な量は70〜100ccなので、大体1カップアップで¥600,000〜1200,000という費用がかかります。プチ豊胸と言われるアクアフィリング・アクアリフト豊胸ですが、値段までプチとはいきません。

禁止されている国がある?

法的に禁じられている国はないと思いますが、推奨されていない国は少なくありません。

大橋ドクターの解説

世界的には危険視されている豊胸術

日本美容外科学会が発表の、アクアフィリングに関する声明文

韓国美容・乳房再建医学会は「アクリルアミドは、以前胸に変形を起こしたアクアミドと同じ成分の可能性が高い」との見解を示した上で「豊胸目的のアクアフィリング使用は安全性が立証されるまで反対する」との立場を示しています。
アメリカ(FDA:食品医薬品局)は、そもそも豊胸を目的とした人工的な充填材(ヒアルロン酸を含む)の使用自体が認められていません。
また日本の美容外科学会(JSAS)も、「アクアフィリングならびにアクアリフトを用いた豊胸術を推奨することはできない」という主旨の声明を発表しています(日本美容外科学会の声明文)。
現在この手術が行われているのは、実は日本を含む東アジアの一部の地域のみです。世界的に見れば、アクアフィリング・アクアリフト豊胸はマイナーな施術と言わざるを得ません。

加えて、2019年に入ってから隣国、韓国でもアクアフィリング豊胸を問題視する声が上がっています。

Surgeons should be careful in performing AQUAfilling® gel injection for breast augmentation, especially when combined with breast implant insertion. 

出典元:「Complication of Ruptured Poly Implant Prothèse® Breast Implants Combined with AQUAfilling® Gel Injection: A Case Report and Literature Review

身体に害は無いの?

アクアフィリングの原料はアクリルアミドという成分で、ヒトに対しておそらく発がん性がある物質だと言われています。

大橋ドクターの解説

たった2%でも、危険な物質には変わりない

アクアフィリングの成分今のところアクアフィリング豊胸が原因でがんを発症したというデータはありません。
ただ、安全性に関して十分な証拠がないのも事実です。そもそも、発がん性が少しでも疑われる物質を患者様のバストに注入すること自体、いかがなものかという意見もあり、美容外科医の間でもこの施術に関する賛否は割れています。なお、当院は安全性を考慮し、昨年(2017年)からアクアフィリング豊胸を中止しました。

危険なアクアフィリングを取り扱うクリニックがあるのはなぜ?

美容外科学会の声明は、あくまでも「推奨しない」ということ。「禁止」ではないので、どのクリニックも導入しようと思えばできるのです。

大橋ドクターの解説

一部のクリニックがアクアフィリングを止めない本当の理由

ヒアルロン酸よりも柔らかい・持続期間が長期(3〜5年)という触れ込みは一見患者様のニーズがあるようにも思えますし、なによりヒアルロン酸よりも高価格です。導入する医師からすれば、単純に儲かるのかもしれません。なかには、Webサイト上では“ヒアルロン酸を超えたプチ豊胸”などと名前を出さずして誘引し、実はアクアフィリング・アクアリフトというケースもあるようです。
私は「安全性が確保されていない豊胸術を行っても、患者様のためにはならない」と思いますが、医師の見解はそれぞれなのでしょう。

充填材の豊胸被害のニュースはアクアフィリングのこと?

アクアフィリングとアクアリフトが該当します。ヒアルロン酸もです。

大橋ドクターの解説

充填材を使った豊胸術のリスクが、日本美容外科学会の調査で明らかに

2018年11月27日、日本美容外科学会の調査によって「ジェル状の充填材を用いた豊胸術で健康被害が相次いでいること」が明らかになりました。いわゆる注入物を使った、プチ豊胸はこれらに該当します。
特にアクアフィリングの場合、医師から「ほとんどが水分なので体に影響ない」と言われた方もいらっしゃるようですが、その後感染を起こしてしまったとのこと。ここ数年、こうした方達の治療(除去手術)に携わってきた私としては、「やっとここまで来たか」という気持ちです。ただ、リスクを知らずに受けてしまい、今回のニュースを機に除去を考えていらっしゃる方の心情を考えると、非常に複雑な気持ちでもあります。今はなにもなくても、きっと不安に感じますよね。アクアフィリングの除去は決して簡単ではありませんので、実績のあるクリニックにお願いしてください。もしよければ、私にご相談いただけるのであれば、適切な方法を提案いたしますのでご相談くださいね。
また、日本美容外科学会の発表は今回が初めてかのように思われるかもしれませんが、先ほども申し上げた通り、2016年に「推奨しない」との声明文を公表しています。この声明文に反して健康被害が多発したのは、アクアフィリングの危険性を軽視した医師が存在するからでしょう。

上手な先生がやってもトラブルは起こる?

豊胸手術の成否が、医師の技術に左右されるのは事実です。しかし、アクアフィリング・アクアリフト豊胸は、どんなに技術が高い医師によるものでも、トラブルの可能性がつきまといます。

大橋ドクターの解説

注入物が危険視されている以上、トラブル回避は困難

豊胸手術に限らず、医療における病院選び・医師選びはその人の人生を左右すると言っても過言ではありません。私が毎日行っている脂肪注入豊胸は、特に医師の注入技術が結果を左右します。
しかし、アクアフィリング・アクアリフトは成分そのものの安全性が確認されていないわけですから、どんなに注入技術がある医師が執刀しても、リスクやトラブルからは逃れられません。

どんなトラブルがある?

よくご相談いただくのは、炎症としこりです。

大橋ドクターの解説

炎症

こちらの方は、本来注入しないはずの皮膚直下に大量のアクアフィリングが溜まり、炎症を起こしていました。バストの一部は、まるで内出血かのように青紫色に変色しています。乳腺下に注入されたアクアフィリングが、他の組織(=皮膚直下)に移動してしまったようです。
この方の場合、脇の注入部から管を入れてアクアフィリングを除去しました。通常のアクアフィリングは透明ですが、取り出したアクアフィリングは黄色く変色。炎症を起こし、軽度の感染を起こして膿と一緒に流れ出てきたのです。この類似例が、論文でも報告されています。※脚注[2]

アクアフィリングの炎症例

しこり

被膜ができにくく、柔らかいと言われるアクアフィリング・アクアリフトですが、しこりを生じる可能性もあります。そのことを裏付ける1枚をご覧ください。アクアフィリング豊胸からわずか半年、硬さと変形に不安を持たれて来院された方です。悲しいことに、あらゆる箇所にしこりが生じていました。
実際の除去手術では、散在したアクアフィリングを的確に除去するため、エコーで目視しながら行います。やはり生理食塩水を注入しても、一部が溶解せず固まっていました。そこで、注射器を使ってなんとか吸引し、除去しました(写真右)。

アクアフィリング豊胸のしこり例

 

アクアフィリングの除去にかかる費用はいくら?

状態にもよるので一度エコー検診を受けてみましょう。

大橋ドクターの解説

エコー検診は無料のクリニックもある

アクアフィリングの除去費用は¥100,000〜と記載されるケースが多いですが、実際には両胸で50〜60万円程度です。
エコー検査だけなら無料で行っているクリニックもあるので、「アクアフィリング 除去 エコー」などで病院を探し、まずは状態を確認するのも良いかもしれません。

どんなふうに除去するか

私がこれまでに経験したアクアフィリングの除去手術では、アクアフィリングを生理食塩水で容易に溶かすことができたケースはほとんどありません。生理食塩水を入れでも、ほんの少し柔らかくなるだけなのです。そのため、実際には少しだけ柔らかくなったアクアフィリングを、太めの注射針を使ってなんとか取り出しています。
それでも取り出せない場合は組織ごと削り取るなどしています。

生理食塩水で溶け切らなかったアクアフィリング

溶けない原因①不純物の混入

アクアフィリング・アクアリフトが生理食塩水で溶解するかどうかを検証した動画は存在し、私もそのいくつかを目にしたことがあります。そこではアクアフィリングやアクアリフトは確かに生理食塩水で容易に溶けていました。しかし、実際の手術環境は実験環境と大きく異なります。血液が混入することもあり得ますし、その他の不純物が介在することもあり得ます。実際の治療場面で実験と同じような結果が得られない要因の一つは、不純物が介在しない実験環境と、術後の乳房内の環境との違いにあるのではないかと推測しています。

溶けない原因②ポリアクリルアミド

アクアフィリングに含まれるポリアクリルアミドにも要因があると考えられます。この成分は生理食塩水で溶けることはありませんが、水分を含ませることで一時的に柔らかくなることはあるようです。実際、私が行った除去手術でも、生理食塩水で柔らかくすることができています。生理食塩水で“溶ける”という表現よりも、“柔らかくなる”という表現が正しいのかもしれません。

※アクリルアミドは、工業用途において紙力増強剤や水処理剤、土壌凝固剤、漏水防止剤、化粧品(シェービングジェルや整髪剤)などに用いられるポリアクリルアミドの原料として1950年代から製造されている化学物質 (参考:農林水産省)

アクアフィリングが溶けない原因

アクアフィリングの健康被害は、一部のアンチドクターが訴えているだけでは?

いいえ。美容医療関連の4団体が、充填材豊胸の危険性を訴える共同声明を出しています。

大橋ドクターの解説

アクアフィリング豊胸の問題は、もはや厚労省も看過できない領域に

2019年の4月25日付で、日本の美容医療関連の4つの学会が、アクアフィリングなどの充填材注入による豊胸手術の危険性を訴え、安全性が証明されるまでこれらを用いた豊胸術は実施すべきでないとの共同声明を発表しました。
当該の4学会は以下の通りです。

一般社団法人 日本形成外科学会
一般社団法人 日本美容外科学会(JSAPS)
一般社団法人 日本美容外科学会(JSAS)
公益社団法人 日本美容医療協会

またこれを受け、厚労省も改めて各都道府県に注意喚起の通達を出しました。

もはやこの件は、特定のクリニックや学会だけが問題視しているようなものではありません。国家規模で対策が検討されるレベルの問題だということを、まずはご認識ください。